150万円の映画で、私は「50万は自分が出す」と言った

25歳のとき、オリジナルビデオ映画を1本撮りました。予算は150万円です。

ただ、私が受け取ったのは100万円でした。

残りの50万円は、自分の労働と引き換えに、権利を取りにいきました。

「予算が読めない人」と言われてきた側の話として書きます。

始まりは、未払いでした

ある作品に、アクション監督として呼ばれていました。

かなり安い予算の仕事でしたが、お金が払われませんでした。

構造としてはこうです。メーカーがあって、その下に制作会社がある。私が請けていたのは、その制作会社からでした。未払いを起こしたのは、その制作会社です。

腹が立ったので、メーカーに直接行きました。

払われていない、と伝えて、こう言いました。

「あんなよく分からないところと組むくらいなら、うちに回してください。」

「150万で作ろう」

そのうえで、こう提案しました。

150万円で作らせてください。試しに1本、撮らせてみてください。

相手は「150万ならやりましょう」と言いました。

ここで普通なら、150万円を受け取って作ります。

でも、私は別のことを言いました。

「だったら、俺が50万出す。100万でいい」

権利が欲しかったからです。

海外の版権を持ちたかった。だから、こう提案しました。

50万円は私が出します。だから、制作費は100万円で構いません。 その代わり、権利をください。

そしてレベニューシェアにしました。作品が上げた利益から控除したあと、その3分の1が私に入るという形です。

これは値引きではありません

ここは間違えられやすいので、はっきり書きます。

50万円を値引きしたのではありません。

50万円ぶんの労働を、自分が買って出た。 それを出資に変えた、ということです。

発注側から見れば、制作費が100万円で済むので儲かります。私から見れば、当たれば3分の1が戻ってくる。

損して得取れ、という感覚でした。

残り100万円を、どう回すか

ここからが本題です。

まず、この予算で何日撮れるのかを逆算しました。

現場の感覚だと、1日あたり50万円くらいで換算します。150万なら3日、100万なら2日です。

ただ、それは丸ごと制作に使えた場合の話です。実際にはキャスト費で3分の1が消えます。

つまり、普通にやったら2日しか回せません。

2日では撮れない話でした。

問いを立て直しました

「どこを削るか」ではなく、「どうやったら可能になるのか」という問いにしました。

そして、こう考えました。

ロケーションと、泊まるところ。この2つを、ある程度一体化できる方法はないか。

宿泊費とロケ地代は、別々の費目です。でも、同じ場所で兼ねられるなら、1つになります。

それをやろうとすると、答えは1つしかありませんでした。

キャンプにするしかない。

全員でキャンプしながら撮る

たまたま、小学校の頃の知人がキャンプ場を持っていました。

お願いしたら、話は早かったです。10万円で5日間借りられました。

そこに全員で泊まり込んで、撮り終わるまで帰れないという状況を作りました。

150万円で3日のはずが、100万円で5日になりました。

ほかに、やったこと

私はギャラを取りませんでした。

美談ではありません。そうするしかなかっただけです。浮いたぶんは、可能な限り制作に回しました。

制作部も、まともに雇えませんでした。

だから、地元の友人に昼飯と夜飯を作ってもらいました。 これも、そうするしかなかったからです。

キャンプ場は地元の知人、飯は地元の友人。地元というリソースを、丸ごと制作に組み込んだ格好です。

体制と、段取り

スタッフは3部署だけです。

キャストは、主演の女優が1人と、男優が4人。

段取りはこうしました。

初日に、都内のシーンを1日で撮り切る。その日の夜に、キャンプ場へ移動する。

あとは、5日間そこで撮り続けました。

正直に書くと、気狂いみたいなことをやったなと思います。めちゃくちゃ過酷でした。

結果

作品は、レンタルで1本あたり20回転したと聞きました。月にそれだけ借りられた、という意味だと理解しています。

シリーズは4本作られました。

そして北米と韓国でもリリースされました。

収益としては、結果的に3倍か4倍にはなっていたと思います。

権利を取りにいった判断は、当たっていました。

ただ、私は受け取っていません

正直に書きます。

当時、一緒にやっていた人がいました。その人が、私の取り分も受け取っていたことが、あとから発覚しました。

その結果、私は上の会社へ移ることになりました。

その条件が、持っていた権利を全部譲渡することでした。

譲渡しました。

だから結局、もらっていません。

2作目は、同じ問いを別の形で解きました

この話には続きがあります。

2作目も作ることになりました。そのとき、同じ問いをもう一度立てました。

ロケーションと宿泊を、どう一体化するか。

2作目の答えは、車でした。

車の中を舞台にして、移動できる形にする。移動先も地元の中で完結させる。そして、実家を宿泊先に使う。

キャンプ場から車と実家へ。形は変わっていますが、解いている問いは同じです。

だから、1作目がまぐれではないと言えます。

何が言いたいか

予算は、削るものではなく、組み替えるものだと思っています。

「1日50万で3日」を「1日20万で5日」にはできません。人件費も機材費も下がらないからです。

でも、宿泊費とロケ地代を1つにまとめることはできます。費目そのものを統合すれば、日数が伸びます。

この発想が出てくるかどうかは、予算が見えているかどうかです。

私は「浮世離れしている」「予算が読めない」と言われてきました。それでも、25歳のときに、制作費と権利とリターンまで含めて設計していました。

そして、その判断は当たりました。

受け取れなかったことは、また別の話です。

だから、教えています

最後に、書いておきたいことがあります。

こういう経験をすると、「誠実にやっていても仕方がない」と思ってしまう瞬間があります。正直、ありました。

ただ、そこで終わらせたくないと思っています。

いま自分が教えている生徒や、後輩には、お金の苦労をしてほしくない。

映像業界の仕組みは、分からない人が多い分野です。契約も、予算の立て方も、権利の話も、教わる機会がほとんどありません。

そして、それを教える人は、あまりいません。

責めているのではありません。自分の立場が脅かされると感じるからだと思います。仕組みを知られると、いまの取り分が変わってしまう。そう考える人がいるのは、分からなくもない。

でも私は、教えたほうがいいと思っています。

損をしないように。少しでも、その仕事がお金になるように。

そのためには、エンタメもやらなければいけないし、企業ものもやらなければいけない。 何だったら、ほんの少し芸術と呼ばれるようなものにも触らなければいけないと思っています。

どれか1つだけでは、食べていけないからです。