「AI動画生成はガチャだ」と言われます。実際、その通りだと思います。
同じプロンプト、同じキーフレームを入れても、出てくるものは毎回違う。腕が3本になったり、カメラが意味もなく回り込んだり、2秒で終わってほしいカットが延々と動き続けたりする。
ただ、ガチャを回す回数は、設計でかなり減らせます。
1話約1分のAIアニメを29話ぶん作ることになって、そのために組んだフローの話をします。いまは Vidu で 2回くらいの生成で完成カットが出るようになりました。
先に結論
- キーフレームを固定した段階で、シーケンスを組んで「尺」を先に決める
- 尺が曖昧だと、モデルは「どこまで動けばいいか」が分からず、破綻・過剰演出・意味のないカメラワークが出る
- 「このカットは7秒」と決めてから生成すると、必要な芝居量とカメラ運動量が定まる
- 正確に言うと、決めているのは尺ではなく 「リズム」
- リズムを掴むために、生成前に自分で芝居しながら喋る
なぜガチャになるのか
生成AIに「動きが曖昧な指示」を渡しているからです。
分かりやすいのが 「立ち上がる」 というカットです。
人が立ち上がる動作は、実際には 1秒くらいで終わります。ここで尺を5秒に指定すると、どうなるか。
AIがさまよいます。
動作自体は1秒で終わってしまうので、残りの4秒を埋めなければならない。だから立ち上がったあとにカメラが意味もなく動いたり、キャラクターが不要な芝居を足したりする。5秒ぶんの「何か」を出そうとするからです。
破綻しているのではありません。指示どおりに、余った尺を埋めているだけです。
逆に「このカットは2秒」と決めて渡せば、2秒ぶんの動きしか入れようがない。動く余地が減るぶん、余計なことをする余地も減ります。
パラメータを詰めるより、指示の解像度を上げるほうが効きます。
静止画コンテで、尺を先に決める
具体的な手順です。
1. キーフレームを抜いた段階で、シーケンスを固定する
絵コンテからキーフレーム(各カットの代表画)を抜いたら、そこで一度編集ソフトのタイムラインに並べます。いわゆる静止画コンテの状態です。この時点では、まだ1本も動画を生成していません。
2. 仮セリフを割り当てて、尺感を出す
並べた静止画に、仮のセリフや音を当てていきます。ここで「このセリフは7秒だな」というのが見えてきます。
3. その尺で生成する
「7秒」と決まったら、Vidu でも Wan 2.2 でも、最初から7秒前提で生成します。
ぴったり7秒にする必要はなく、1秒くらい余裕を持たせます。編集で詰められる余白は残しておいたほうが安全です。
この順番にするだけで、無駄な生成がかなり減ります。「とりあえず長めに生成して、あとでリップルで詰めよう」という発想が要らなくなるので、結果としてクレジットも時間も節約できます。
実は「尺」ではなく「リズム」を決めている
ここからが本題です。
やっていることを正確に言うと、尺を決めているのではなく、リズムを決めています。
この発想の出どころは、企業CMやWeb CMの現場です。ああいう仕事は尺管理が厳密なので、昔から「プレビズ」を作る文化があります。絵コンテを並べて、仮音声を入れて、先にテンポを見る。それをAI映像制作に流用しています。
自分で芝居しながら喋る
具体的には、Premiereのタイムラインに並べた絵コンテに対して、自分で音声を入れていきます。しかも芝居しながら。
たとえば、
「ババン、バババン……貴様やるな……!」
セリフだけでなく、勢いや間も含めて声に出す。あるいは、
「スッ……ジーッ……」
のように、覗き込むときの呼吸まで入れる。
文字で書くとかなり変ですが、これが効きます。その音声の中には、セリフの重さ・間・呼吸・テンポ・芝居のリズムが全部入っているからです。
そして、その「喋ったリズム」に合わせて絵コンテをはめていく。すると映像のテンポが先に生まれます。
まず映像のリズムを作る。それから動画を生成する。
この順番だと、生成AI側も「どういうテンポの映像なのか」が定まった状態で受け取ることになるので、外れが減ります。
喋れないときは、脚本かカットが悪い
副産物として、これは診断にもなります。
やってみると分かるのですが、自分の中で映像のリズムが固まっていないときは、うまく喋れません。詰まるし、間が決まらないし、なんとなく気持ち悪い。
そこで引っかかったら、生成に進む前に、
- 脚本を読み直す
- カットを見直す
- 間を調整する
これをやると、かなり改善します。しかも作業しながら「あ、ここカットが足りないな」「ここは一呼吸必要だな」というのが見えてきます。
生成してから気づくより、圧倒的に安上がりです。
余談:ジャッキー・チェンにはリズムがある
なぜ「リズム」という言葉にこだわるのか、という話を少しだけ。
私はジャッキー・チェン作品からかなり影響を受けています。特に本人が監督している作品を観ると分かりやすいのですが、あの人のアクションは、
- そこまで効果音に頼っていない
- カメラワークも意外と派手ではない
- カット割りも、最近のアクション映画ほど細かくない
それなのに、ものすごく気持ちいい。理由は、映像そのものにリズムがあるからだと思っています。
面白いのは、ファンからすると「本人が監督した作品」と「監督は別だがアクション演出を作り込んでいる作品」が、なんとなく見分けられることです。それくらい「ジャッキー・チェン的なリズム」が存在している。小気味よさ、間、緩急、呼吸感。
しかも彼はかなり音楽的な人です。趣味はカラオケで、自分の映画の主題歌もずっと自分で歌っている。自伝には「この曲は変拍子だから歌いづらい」といった話も出てきます。
京劇由来の身体性に、西洋的な音楽リズム感覚が混ざっている。だからあの独特のテンポ感が生まれているのだと思います。
リズムは、映像を成立させる骨格です。 そしてAIは、いまのところリズムを持っていません。だから人間が先に決めて渡す必要があります。
全体を見るフェーズと、一枚を見るフェーズを分ける
もうひとつ、この設計の土台にある考え方です。
ものづくりは、アウトラインからディテールへ進みます。だから工程ごとに「何を見るか」を切り替えます。
| フェーズ | 見るもの | やること |
|---|---|---|
| 絵コンテ(ラフ) | 全体 | 構図とショットの流れ。1枚の完成度は見ない |
| キーフレーム | 一枚 | このワンカットをどう演出するか。精度を上げる |
| 動画生成 | 動き | 決まった尺の中で、必要な芝居だけ |
ラフの段階で1枚の完成度を上げようとすると、全体が見えないまま細部に時間を溶かします。逆にキーフレームの段階で全体ばかり見ていると、1カットずつの演出が甘いままになる。
見るものを工程で切り替える、というだけの話ですが、これを決めておくと迷いが減ります。
このフロー全体の位置づけ
ここまでの話は、もう少し大きなフローの後半部分です。全体はこうなっています。
① 脚本 ← 人が書く
② JSON変換 ← キャラ・背景・シーン・カット割りを構造化
③ 絵コンテ生成 ← JSONから9枚まとめて出す
④ キーフレーム生成 ← 絵コンテから抜いて清書
⑤ 静止画コンテ・尺決め ← この記事の話
⑥ 動画生成・編集
この設計の根っこにあるのは、映画の現場で使われている「香盤表」です。台本を分解して、シーン・時間帯・登場人物・小道具・衣装を抽出し、各部署へ渡す。あれは要するに現場のためのデータベースです。
それをJSONに置き換えれば、そのままLLMに読ませられる。やっていることは、現場の知恵をAI時代の道具に翻訳しているだけです。派手な技術は使っていません。
コストの話
最後に、実務的な補足を。
同じ結果を出すのでも、選ぶモデルで時間もお金も桁違いに変わります。プロンプトトラベル相当の処理で、ComfyUIのWanでは15分かかったものが、Viduなら8秒・約20円で済んだことがあります。
だから、プロほど「いちばんきれいなモデル」ではなく「この用途にいちばん割の合うモデル」を選びます。物差しは2つだけです。
- 時間のコスト(待ちが長いと、その日の他の作業が全部止まる)
- お金のコスト(クレジット・料金)
そしてもうひとつ、地味に効くルールがあります。重い生成を忙しい時間帯に仕掛けない。これだけで事故がかなり減ります。
尺を先に決めて生成回数を減らすことは、そのままこのコストにも効いてきます。実際、体感値ですが、2分程度の動画で1,000〜2,000円かからないくらいで書き出しまで到達しています。1カットあたり2〜3回の生成で完成するので、そのぶん課金が積み上がりません。
「ガチャを減らす」は、品質の話であると同時に原価の話でもあります。
まとめ
- ガチャは消えないが、回す回数は設計で減らせる
- キーフレームを固定した段階で、静止画コンテを組んで尺を先に決める
- 尺が曖昧だとモデルは動きすぎる。決まっていれば破綻も過剰演出も減る
- 決めているのは尺ではなくリズム。生成前に自分で芝居しながら喋る
- 喋れないときは、脚本かカットに問題がある。生成前に気づける
- 全体を見るフェーズと一枚を見るフェーズを分ける
プロンプトを工夫するより、こちらのほうが確実に効きました。
