映画の現場には香盤表(こうばんひょう)というものがあります。
台本を全部分解して、こういう情報をシーン1からラストまで抜き出す表です。
- シーン
- 時間帯
- 登場人物
- 小道具
- 衣装
そして抽出したデータを、小道具部、カメラ部、CG部、照明部——それぞれの部署へ渡していきます。
映画は、そうやって作られています。
つまり香盤表は、現場のためのデータベースです
改めて言葉にすると、これはデータベースです。台本という非構造データを分解して、部署ごとに必要な形で取り出せるようにしたもの。
紙の表として運用されているだけで、構造としてはDBそのものです。
だとしたら——デジタルネイティブな形式に置き換えれば、そのままLLMに読ませられます。
これが、AIアニメを29話作るときに組んだフローの、根っこにある発想です。
全体のフロー
① 脚本 ← 人が書く
② JSON変換 ← キャラ・背景・シーン・カット割りを構造化
③ 絵コンテ生成 ← JSONから生成
④ キーフレーム生成 ← 絵コンテから抜いて清書
⑤ 動画生成・編集
②でJSONにするのは、この4つです。
- キャラクター
- 背景
- シーン情報
- カット割り
なぜJSONにすると良いのか
理由は分業できるようになるからです。
シナリオをJSONに変換する工程は、専門家でなくてもできます。 映像の専門知識がなくても、台本を読んで情報を抜き出すことはできる。
そして演出家がJSONベースでカット割りまで整理しておけば、そこから生成される絵コンテが大きく外れません。
結果として、工程を切り分けられます。
- 絵コンテを作る
- キーフレームとして清書する
- 動画化する
それぞれ別の人が担当できる。 これが香盤表と同じ発想です。香盤表があるから、小道具部とカメラ部が別々に動ける。
ただし、シナリオは人が書く
ここは譲れない部分です。
シナリオ自体は、人が書かなければいけないと思っています。それをコンテキストとして扱って、後工程を整理していく。
AIで軽くできるのは、その周辺にある整理・接続・試行回数を増やすための下準備です。演出や感性の部分は、いまでも人間の役割が大きいと思っています。
IDで縛ると、他のツールに渡してもブレない
JSONにする実務的な利点がもう一つあります。
キャラクターIDや背景IDとJSONが紐づいていると、カット割りをした時点でシーン情報とキャラIDも一緒に紐づきます。
その状態でComfyUIや別のLLMに渡すと、情報がぶれにくい。
プロンプトの書き方を工夫するより、IDで縛ってしまう方が確実です。
制作では「まだ出来ていない」が普通に起きる
もう一つ、実際にやってみて分かったことがあります。
制作を進めていると、こういう状態が普通に発生します。
- キャラクターデザインがまだ上がっていない
- この衣装がまだ決まっていない
- このキャラクターの設定が未完了
特にオリジナル作品では、かなり頻繁に起きます。
しかもキャラクターには差分があります。
| 軸 | 例 |
|---|---|
| 時期・季節 | 春夏秋冬 |
| 時間帯 | 朝・昼・夜 |
| 場所 | 学校・部屋 |
| 衣装 | 私服・制服 |
これを管理しなければならない。そして「何が足りないのか」をクライアントに確認する必要があります。
ここをLLMで整理できると、かなり強い。
足りないものを可視化するツールを作った
そのためにANIMALINKというツールを自作しました。ローカルLLM前提です。日本語をしっかり読めるモデルを使っています。
やっていることはこうです。
- Gemma 3 でシナリオを読み解き、差分を抽出(キャラクター/背景/衣装/シーン差分)
- そこにキャラクターデザインを突き合わせる
- Qwen系のVisionモデルでキャラ画像を解析(服装/顔/肌の色/目の色)し、差分を洗い出す
結果として、どのデータが揃っていて、どのデータが不足しているかが見えるようになります。
生成ではなく、照合と棚卸しにLLMを使う、という発想です。ローカルで動くので、権利的に外へ出せない案件でも使えます。
AI時代に重要になるのは「整理能力」
ここまで書いてきて、結論はこうなります。
AI時代のアニメ制作で重要になるのは、絵が描けるかどうかだけではありません。
- 情報をどう整理するか
- どう分解するか
- どうLLMに見せるか
- どう役割分担するか
つまり設計能力です。
雑に投げれば、雑なものが返ってきます。 だからこそ、どういう構造で情報を管理するかが決定的になります。
結局やっているのは「翻訳」です
派手な技術は使っていません。やっていることを一言でまとめると、こうなります。
現場の知恵を、AI時代の道具に翻訳している。
香盤表という、何十年も映画の現場で使われてきた仕組みを、JSONという形式に置き換えただけです。
でも、この翻訳作業こそが一番大事なのだろう、と最近は思っています。
まとめ
- 香盤表は、現場のためのデータベース。だからJSONに置き換えられる
- JSON化すると LLMに読ませられる → 工程を分業できる
- JSONで管理するのは キャラクター/背景/シーン情報/カット割り
- シナリオは人が書く。AIが軽くするのは整理・接続・下準備
- IDで縛ると、他ツールに渡しても情報がブレない
- 制作では「まだ出来ていない」が普通に起きる
もし、AIアニメや映像制作を複数人でやろうとしている方がいらっしゃったら。
まず、香盤表を作ってみてください。 そしてそれをJSONにしてみてください。
エクセルでも構いません。大事なのは、「誰が何を作るのか」が一覧になっていることです。
分業できない一番の理由は、腕ではなく、渡す形が無いことだと思っています。。不足の可視化が効く - 雑に投げれば雑なものが返る。構造の設計が決定的
